大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和52年(行ウ)85号 判決 1979年2月16日

原告

エアロマスター株式会社

更生管財人

吉田訓康

右訴訟代理人

石田法子

外五名

被告

大阪国税局長

篠田信義

右指定代理人

辻井治

外四名

主文

被告が昭和五二年七月四日付で別紙預金目録記載の預金債権に対してなした差押処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

<前略>

(請求原因)

一、エアロマスター株式会社(以下本件更生会社という)は、昭和五〇年二月一〇日大阪地方裁判所において更生手続開始決定を受けた。原告は、昭和五一年一〇月二六日、本件更生会社の更生管財人に選任された。

二、被告は、本件更生会社に対する別紙税額表記載の物品税及びその延滞税の滞納処分として昭和五二年七月四日、原告の別紙預金目録記載の預金債権に対する差押処分をした。

三、1 本件更生会社は、更生手続中の昭和五一年一〇月二〇日及び同月二五日に振出手形の支払ができず不渡とし、再倒産した。

2 本件更生会社の本件差押処分当時の実質資産は約金二九、〇〇〇万円であり、共益債権は金一、六七五、七三七、五六九円であるから会社財産が共益債権の総額を弁済するに足りないことが明らかな状況にある。<中略>

3 したがつて、原告としては、会社更生法二一〇条により共益債権につき債権額の割合に応じて弁済しなければならないことになるが、本件定期預金債権は、共益債権者に対する弁済のための重要な資源となるものである。

本件差押処分を是認すれば、被告は、他の共益債権者に先だち優先的に弁済を受ける結果となり、本件差押処分は会社更生法二一〇条に違反した処分である。

四、よつて原告は被告に対し、本件差押処分の取消を求める。

(答弁)

一、<省略>

二、仮に本件更生会社の会社財産が共益債権の総額を弁済するのに足りないことが明らかな状況にあるとしても、次の理由により本件差押処分は適法である。

1 共益債権たる国税債権は、更生手続によらないで随時弁済を受け得るものであり(会社更生法二〇九条)、また、国税徴収法により付与された自力執行権の行使も当然是認されるものであるから、右による弁済(納付)がされない場合、同法四七条に基づき本件更生会社の財産に対して差押え得るものである。そして本件差押処分は、差押えに係る滞納国税が共益債権に該当すること、及び、差押執行時である昭和五二年七月四日現在において、同法四七条一項一号規定の要件を充たしていたことを理由に執行されたものであり、右差押時において原告が主張するように、本件更生会社が、会社更生法二一〇条にいう財産不足の状態にあつたとしても、右条項は、この状態が明らかになつた場合における共益債権の弁済方法について定める手続規定であり、共益債権を割合的弁済額まで減額する実体的規定と解すべきではないから、本件差押処分はいずれにせよ適法な処分であることを失わないというべきである。

2 会社更生法二一〇条において、国税徴収法に基づく国税債権の優先性を否定しているとしても、強制執行等の続行に関して定める会社更生法二一〇条の二には、その規定の体裁上明らかに国税徴収処分たる差押処分が除外されているところであり、(ちなみに滞納処分の中止・取消等が認められる場合にはその旨の明文がある、たとえば同法六七条)したがつて、その自力執行権までも否定しているとみることはできない。又会社更生法二一〇条の二の三項の条文上、右財産の不足の状態は、裁判所において、強制執行等の取消を命ずることができるとされるにとどまり、必ずこれを取消すべきものとされていないところであるから、このことが行政処分である本件差押処分の取消を招来する違法原因となるとは解し難い。けだし、行政処分に違法原因が存在するときは一定の場合(行訴法三一条等)を除いて必ず取消すべきことになるところ、もし、前記会社財産不足の状態をもつて差押処分の取消原因たることを許容すると必ず取消されることとなるから、国税債権は、会社更生法二一〇条の二の三項で処理されるべき一般強制執行債権等に比し、法律上の根拠なくして、著しく不利益な地位に置かれることになり、不合理というべきだからである。

理由

一請求原因一、二項の事実は当事者間に争いがない。

二1 請求原因三項1の事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば本件更生会社は、昭和五一年一〇月の再倒産により事業を継続することが不可能となり同年一一月二〇日頃、残務整理要員を残して他の従業員全員を解雇して事業を中止したこと、そして当時の更生管財人が辞任したため、原告が、更生管財人に選任され、本件更生会社の残務整理に当ることとなつたこと、又更生裁判所は、監査法人栄光会計事務所に同年一二月三一日現在の本件更生会社の財産状況等の監査を命じたことが認められる。<中略>

3 右認定の事実により、債権債務を相殺し、担保の対象となつている物件および被担保債務を控除し、本件差押処分当時の本件更生会社の実質上の財産状態をみれば、一般の共益債権の支払に充てることのできる一般財産の額は前記(一)(12)の京神倉庫株式会社関係の金二三、五六一、二一六円を加えても金六二六、九四一、七三〇円であるのに対し、一般の共益債権の額は金一、四六九、三四一、二五四円であり、会社財産をもつて共益債権の総額を弁済するに足りないことが明らかであつたものといわねばならない。

したがつて共益債権は、留置権、特別の先取特権、質権、抵当権のある債権を除き、法令に定める優先権を考慮することなく債権額の割合に応じて弁済されることとなる(会社更生法二一〇条)。そして、このように担保権のある場合のほかは優先権が考慮されないのであるから、本件差押処分の基となつた物品税等の国税も他の共益債権と同様に取扱われ、何らの優先権を主張しうるものではない。このように共益債権者への平等弁済を確保するためには、随時の弁済(同法二〇九条一項)及びそれに伴う強制執行や滞納処分は許されなくなるものと解される。そうでなければ一部の共益債権者への優先弁済を認める結果となり、債権額に応じた平等弁済を実行することは不可能になつて、共益債権者間の公平が保たれなくなるからであり、又そのために同法二一〇条の二第三項は、更生裁判所が簡易な決定手続により強制執行等の取消を命ずることができる旨を定めているものである。同法二一〇条の二第三項では取消しうる対象として滞納処分が除かれているが、これは右の更生裁判所による簡易な手続による取消の対象から除外したにすぎず、通常の手続即ち国税通則法七五条以下の定めによる異議申立等及び行政訴訟による取消を禁じたものとは解し得ない。

以上により本件差押処分は会社更生法二一〇条に違反した処分でありその取消は免れない。

三よつて、原告の本訴請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(荻田健治郎 寺崎次郎 近藤壽邦)

別紙<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例